スラップスティックス[3] >> 『処変はれば御相手も変はつて、往きます。』

季節は春、サーキットは今日もうららかである。
なぜか妙に仲のいいCFレーサーたちであるが、今日もごたぶんにもれずカフェとかそういうところにたまっていた。
シーズン中だろうがなんだろうが、基本的にヒマなようである。
一方的に波乱万丈なインターナショナルカポーも、例によって例のごとく、他チームドライバーとかとなれあっているのであった。いいのかそれで。
(春がシーズン中なのかとかそういうことはわたしは知りませんあしからず。例のごとく。)

 

「なー、ブーツホルツもなんとかいってやってよ〜」
泣きついているのはここ数回の被害者であるアメリカ人である、もちろん。
数週間前に、愛しのハニーとやっとのことで思いを遂げ(たぶん)、いい思いもしたがそれを上回る恐怖体験の傷も癒えないうちに岩塩(大粒)をこころをこめてぬりこまれるような、目にほぼ毎日昼夜をとわずあっている彼である、案の定。
たぶん生まれは地球ではない恋人が、じぶんの手におえないことをやっと学習したのか、最近は他人を間にいれるという姑息な手段に出ているらしい。
しかし、なんとか言えといわれても、おそらくいわねばならないのはいいたくないようなことばかりだろう。
対する隻眼のロシア人は必死に新聞紙で顔を覆い、無関係をよそおっている。
グーデリアンの隣にすわる、だいたいが人のいいこの男は、このすさまじい(いろんな意味で)業界内では唯一の良心であるとともに最大の被害者でもあるので、いいかげん学習していて面倒事からは積極的に退避したいのだ。
特に、このカポーに関しては、彼氏のほうは普通に迷惑なだけだが、相方がどうにもおそろしい。現実的に己の体をハッキングされそうなマッドな危機感がかなりイヤだし、けっこうな確率で呪術とかを使いそうだからである。
偏見だが永久凍土の直感はあたらずも遠からずだ。
「もう俺はなにもいわん。なにもきかん。俺のことは路傍の石だとおもってくれ……」
相当懲りているようである。なにかあったのか。
「すまんなブーツホルツ、いつもうちのが迷惑ばかりかけて」
諸悪の根源たるドイツ人は、ラップトップのキーを叩きながらも良妻顔で詫びをいれている。午後の太陽がうららかだ。
「だれのせいだとおもってんのッ!だいたいハイネルがもうちっとこう……」
「グーデリアン、こういうところであまりそういった話をするのはよくないぞ。だれがなにを聞きつけるかわから」
人のいいロシア人が見るに見かねた(いまさらの)忠告もむなしく、ガサッとうしろの草叢がうごめいた。

「話はきかせてもらったぞ諸君!」
逆光がそのときフラッシュのようにひらめいたのは気のせいだろうか。
草叢からさっそうと登場したのは、スゴウのオーナーにして元音速の騎士、オサム・スゴウ(国籍:日本)であった。
チームウェアにスニーカーという出で立ちはどことなく所帯じみているが、きらりと光るサングラスはなにかを髣髴とさせる。
一歩進むごとに間をとるのは、往年の大御所の習性とでもいうべきか。
大仰な登場に、盗聴だろ、とブーツホルツがぼそりとつっこむ。
「失敬な。CF界の風紀の乱れようを憂えているだけだ」
あまり説得力がないのは、たぶんどう考えてもカフェ脇の茂みに潜んでいたとしか思えない登場のしかたのせいだろうか。サングラスをとり前髪をなおすしぐさもうさんくさい。
「ハイネル、聞かせてもらったがきみのやりかたはよくないぞ。パートナーシップというものは、相互のコンセンサスが最重要事項だ。そこをおろそかにするようでは、続くものも続かなくなる」
「純然たる趣味です。ほうっておいていただこう」
聞かせるほどまだなにも話していなかったので、どこでどう聞いていたのかグーデリアンはとても不思議だったがハイネルはさらりと流してお茶を飲んでいる。
「趣味を相手におしつけるのが問題だというんだ。交際期間1年以上のカップルのうち約56パーセントは性的嗜好の不一致に悩まされているというが」
往年の皇帝は腕組み仁王立ちで早くも説教モードだ。
対するハイネルは、どこかできいたようなセリフは聞き流してキーボードを叩きつづけている。
「あなたにいわれたくはないな」
「どういう意味だ」
「妹の婚約者に懸想して、ことあるごとにデートに乱入したり、風呂場に乱入したり、寝室に乱入したり、妹の留守をみはからってセクハラしにいったり、無言電話をくりかえしたり、パンツかぶったり、車に盗聴器をしこんだり、パンツかぶったりしているかたにパートナーシップのなんたるかを説かれたくないという、きわめて明確な意思表示ですよ」
「えっマジ!?」
ゴシップ大好き自分も貢献なグーデリアンがぴよっと聞き耳を立てる。なんたって、あの音速の騎士がである。正体不明だがバレバレのニセ英国人というだけでもいいネタなのに、そのうえ完全な変態である。かててくわえて、妹の婚約者といえばあのハヤト・カザミじゃないか。内輪すぎる。おもしろすぎる。
「マジマジ。そのうえ妹の寝室に隠しカメラをしかけて録画テープをわたしの口からはとてもいえないような下品なことに使用しているあきれ果てた男なんだこいつは」
「ハイネル!」
なぜか軽いノリのハイネルに、スゴウのオーナーは血相を変えたかとおもうと、
「それは言わない約束だろう」
あっさり認めた。
「これは失礼 」
それよりも、なぜそんなことをハイネルが知っているんだろうとか当然の疑問が頭をもたげたが、それはたぶん追及しないほうがいいのだ経験上。絶対に。
グーデリアンは、だから矛先をいちばん安全そうなところに向けた。
「なぁ、あいつダンナのトモダチだよな……?」
「俺は路傍の倒木だ。なにもきかんでくれ……」
痛切な響きである。
グーデリアンはそのとき、ふきっさらしの道に倒れる朽ちた巨木をありありと眼前にした。
善意の人も大苦労である。

「まったく、きみがそんな大ボケだからハイネル氏も苦労するんだ」
同情のためいきをついたグーデリアンの背後から、招かれざる第三者の声がきこえた。
よくとおる傲慢な声、ふりむかなくても目星はついたが、やはり一同ふりかえる。
と、なんの効果か突風がふき、色とりどりのバラの花びらが舞い散った。
うしろに流した見事な金髪を優美なゆびさきで改めてはらう、成人しても少女のような美貌と王族の気品がブリリアントで相乗効果な青年は、ユニオンセイバーをポケットマネーで買収した、カール・リヒター・フォン・ランドル(オーストリア在住)であった。
「ごきげんよう、お兄さま方。今日もたいそうお暇なごようす。うらやましいかぎりですね」
そういうおまえはどうなんだというつっこみは、とりあえず大ふきだしで全員の頭上に浮かんでいるのだろうがそこはみんな大人なのでだまっている。もうすぐ三十路だ。
ピチピチで無冠のアマデウスはというと、真紅のバラを片手に、 そこらをとりあえず一巡してまたグーデリアンの背後にもどってくる。
だいたい次の展開は読めてきたが、往年の天才少年は手にしたバラをグーデリアンの肩越しに、ポージングするかのようにさしだした。
「ハイネル氏もごきげんよう。ミラノ以来かな?あの夜はとてもたのしかった……」
「ああ、いい天気だな」
受け取ったバラを空いているグーデリアンのコップにさして、いつのまにか文庫本を読んでいたハイネルは顔を上げずにうなずいた。
会話がかみあっていないのは、どちらも気にしていないようだ。
あなたの知らない世界である。

ベランダの柵(ロミオとジュリエットふうに)のような扱いをされたグーデリアンは、約5分ほど事態をのみこむことなくチョコバナナパフェをがっついていたが、5分を10秒ほど経過したところで、
「……って待て、おまえ、よりにもよってコレかぁ!?」
ランドルの(時候の)挨拶にふさわしい反応をしめした。
ガタリと立ち上がり、向かいのハイネルの肩をガッとわしづかむ。ゆさぶらんばかりの勢いで、涙ながらにかきくどくには、
「スゴウのオーナーまではまだ許せる。自分でもよくわからないけどなんか許せる、長いものには巻かれろってゆうしというか許す!でもソレはないだろぅ!?ソレ、ランドルだぜ!?オーストリアのアホ貴族だぜ!?」
いっきにまくしたててぜいぜい息を切らしている口元に、チョコレートがついたままだ。
かわいいなぁ、と一瞬うっとりした表情をうかべていたハイネルだったが、よくわからない理屈ながら迫力なグーデリアンの剣幕に、またおぼえのあるごまかし笑いをした。かわいく笑えばたいがいなんとかなることを学習したらしい。
アメリカ人基準の愛らしさだが。
「まぁなんだ、その、……さわりだけだから。」
「そもそもきみがそんな大ボケだから、ハイネル氏も心労が絶えないのだ。まぁ、安心したまえ、ジャッキー・グーデリアン。ぼくにはフロイライン・アスカという運命の女性がいる。氏とのことは単なる一夜のラブ・アフェアーだ。ヘル・ハイネルのたっての願い、オーストリア貴族たる僕には拒否することなどできない……」
「べつにたってもねがってもないぞ、わたしは」
あなたの知らない世界である。
そこへずいと割って入ってきたのはスゴウのオーナーである。ぽん、とグーデリアンの肩をたたき、まるで父親のようなオーラをかもして微笑む。
「大目にみてやれ、グーデリアン。ハイネルの金髪好きはもう病気だ。うちのクレアに手を出しかけたときは、金髪なら化けモノでもいいのかとむしろ感心したくらいだが、とにかく持病のようなものだからしかたがないさ」
「あなたに弁護されたくはないが」
じぶんの彼女を化けモノよばわりはどうかとおもうが、でもそれは真実なのだろう。ハイネルはわりと本気で不満顔だが、それはその場の全員が納得した。
「たのむハイネル、そのモンスターたちとヘーキでコミュニケーションしないで……」
そっと涙をながすのはグーデリアンだ。最近精神疲労過多もはなはだしい。
「やれやれ、これじゃあどっちが主人かわからんな」
わざとらしいため息をついたのはオーストリアの貴公子である。
「飼い主としての自覚がまるでない。主人が奴隷に哀願するなど、心得違いもはなはだしい」
飼ってない飼ってない、とへこたれ顔で口をぱくぱくするグーデリアンに(今日も)発言権はない。

多勢に無勢が服も着ないで鎮座ましましているようなぐあいになったそのとき、キン!と甲高いヒール音が春のうららかな空気を裂いた。
「なさけないわよジャッキー・グーデリアン!」
いきなり罵倒されている。
鋭利な色のエナメルをびしっとつきつけたのは、胸元の露出もまぶしいブランドスーツの美女だった。鋭角に描かれた凛々しい眉も毒々しいルージュも素顔のように似合っている。波打つ豊かな髪がはじけんばかりの胸元にかかって、この場ではまごうことなき紅一点なのであったが、男衆は凍りついた。
「それでアメリカの種馬のおつもり?あたくしがっかりしてよ。ミスタの見立てだからとおもって今までだまっていましたけど」
いや、それはべつに誇るべき二つ名ではないから、とつっこむ度胸はグーデリアンにはもちろんない。
だって彼女はアオイの女王様ことCF界の女王様、それは裏でも表でもとにかく女王様なので、アオイZIPオーナーのキョウコ・アオイにあえてはむかう男はいないのである。いるとしたらCFアンダーグラウンドのジョーカー、ジョウタロウ・カガくらいか。
というか、ミスタというのはやはりハイネルのことなのであろうか。いったい恋人の人間関係とかほかのさまざまな関係はどうなっているのか。
いや深くはかんがえまい。
気がつくと、件の美女がヒールの音をことさらにひびかせながら、じりじりと距離をつめていた。
大ぶりなサファイアのイヤリングをはじいて、アオイの女主人はグロスでぬめる唇をさらに舌で湿している。接近するにつれて、ローズ系なのに過分にスパイシーなフレグランスがつよく匂う。
「ペットの調教ならあたくし、仕込んでさしあげてもよくってよ。ミスタ、あなたならご存知のはずだわ。わたくしの実力と実績を」
ご存知ってやっぱりそうなのかハイネル。
でもグーデリアンは訊かない。長いものには巻かれろである。破天荒にみえて典型的なO型、ジャッキー・グーデリアン(米国籍)であった。
アオイのオーナーは、ふふ、と含み笑いでそんなかれににじりよる。
「安心なさってミスタ。こういう筋肉デブあたくしぜんぜん好みじゃないの。ただあなたたちがたのしくあそべるように、手ほどきしてさしあげようっていう、あたたかい友情。あなたとわたしの仲じゃありませんの。もっとはやく相談してくだすったらよかったのに」
どんな仲だ、とか、 なんの相談だ、とか、ていうか筋肉デブ?とかクエスチョンマークでいっぱいになっているグーデリアンの頬を、刃物のようなエナメルがなであげた。
気づいたときにはもうおそく、脇にぴたりと押しつけられた女体に、グーデリアンは長いものには巻かれろ、と呪文のように口の中でくりかえすがぶっちゃけホラーである。だってアオイキョウコなのだ。若い男の生き血をすするとか、いや処女の生き血をバスタブに注がせているんだとか、そういう黒いウワサでモヤモヤの女怪なのだ。
……今日という今日は生きて帰れないかもしれない……。
グーデリアンはそこはかとなく覚悟をきめたが、しかし、かれの恋人も負けてはいなかった。
いつ立ち上がったものか、革靴の音をひびかせてテーブルをまわりこんだハイネルが、いまやグーデリアンの首にまきついているアオイオーナーのうでをパシリとはらいのけてにこりと笑んだ。
三白眼にちかい 緑の目が、じっさい毒蛇のようである。たぶん舌も緑色だ。
「ありがとう、ミズ。でも、わたしはプロセスをたのしむほうなんでね」
「まあやきもちやきだこと」
気分を害したふうもなく、かるくと見えて実は万力ではたかれた手首をさすりながら、アオイの女王様はやや残念そうに、でもすぐに身をひいた。
でもあなたとはまたご一緒させてね、とハイネルの頬にかるくキスする。
このあたりの見切りが、やはり堅気ではない。
蜥蜴のような女王様となにやら仲良しなふぜいの恋人を、グーデリアンはあらためておそろしいとおもうのであった。

そんな爬虫類系どうしのじゃれあいと、青い顔のグーデリアンをさして興味もなさそうに見比べていたオーストリア貴公子が、だしぬけに口火を切った。
「だいたい、あなたほどの人が眼鏡ちがいもはなはだしいのでは?ヘル・ハイネル」
「どういう意味だ」
水をむけられたハイネル(蛇のほう)が、 アオイのオーナー(蜥蜴のほう)から身をはなして切り返す。
あなたほどのって、自分の恋人はなんのエキスパートなんだろう。いや、深くは考えまい、もはやかたくなに目をつぶるグーデリアンである。
貴公子は手にしたバラをすっと頭上にかかげたあと、それはなんら意味がなかったようで、また優雅な身振りで口もとまでもってゆき、フッと笑んだ。
「適性の問題ですよ。分担を変えればすべてうまくいく。あなただってそちらのほうがお得意でしょう」
分担。
グーデリアンが、貴公子のことばの意味を理解しようとして脳が拒否してもうタイヘーンになっている間に、ハイネルはちょっと検討モードにはいっている。
「意外と楽しいのではないですか?猛獣使いみたいで」

「少々残念ではあるが、まあそれもいいかな」
1秒ほど考えてハイネルは安易に心変わりした。光ファイバー並だ。
あまりの速さに 毒気を抜かれていたが、グーデリアンははたと気づく。
ということは。論理的帰結として実際。消去法でいってもつまり。
「……お、おまえ、そこは曲げるところじゃないだろ!?男が一度こころに決めたことを、およそ1秒で撤回していいのか?死ぬ気で粘れよ!夢から逃げるな!男なら!!
このときばかりは、5年に1度くらいの本気度で吼えた。それだけは阻止しなければ。 殺 さ れ る ……!
保身に走った男は意外に強い。
グーデリアンの目には、魔球の完成をあきらめかけた息子に拘束器具を装着させ殴る蹴るの暴行をくわえる、現在であれば児童虐待で実刑確実の父親のごとく燃えていた。
「グーデリアン、おまえ、そこまで……」
すっかりトリップしていたグーデリアンが正気づくと、感にたえないといったふうな恋人が、目に涙をうかべて男節をふるったグーデリアンの手を両手でにぎりこんでいた。
己の言動の意味をやっととらえたグーデリアンが、なにかを撤回しようとしても、いつものごとくもうおそい。
「わかった、グーデリアン。わたしは諦めない。ふたりで立派な主従関係を築いていこう。わたしも、今日からますます精進して、日々奴隷のように傅いてみせる!」
「すてきだわ、それでこそジャッキー・グーデリアン、アメリカの種付け駄馬ね!」
「たのしみにしてるぞ、グーデリアン。きみの勇姿を!」
「フッ、グーデリアン、きみの野蛮なオーラに今日は花を持たせてやるとしよう」
しかもほうぼうから支援の声があがっている。なんなんだここは。
いますぐにもここでなにかを実行しそうなハイネルを必死でおしとどめつつ、グーデリアンは魔境気分をまたも満喫である。
胴上げでもはじまりそうな空気の中に、わりと必死な声がわりこんできた。

「監督、ちょっと……」
この場に監督と呼ばれる人間は約3名ほどいるので、ざっと同時にふり向いたがおそるおそる近づいてくるのは、シュトルムツェンダーのウェアを着たスタッフだった。グーデリアンの手を折れよとばかりにかたく握りしめていたハイネルが、一瞬で業務モードにもどって足を組みなおす。
「どうした。今日はシュミットにまかせてきたはずだが?」
さっきまで奴隷がどうとか傅くとかいっていた人間とはおもえないまともな上司の口調である。
「先日本社に提出した追加パーツ分の予算増額の件で」
「わたしがいないと予算もとれんのか。まったくしようがないな」
「しかし、お父上が」
いいつのるクルーに、ハイネルはつめたい一瞥をくれてすいと立ち上がった。
「言い訳はいい。とにかく、耄碌爺がしゃしゃり出てくる前にむしりとるんだ。あんなろくでもない会社、倒産するまで食いつぶしてやる」
おそらくそれはたぶんに本気で、 いや目がシャレにならないほどマジだったので、一同一瞬シンとしずまりかえる。
そのまま超音速で歩み去ってしまったシュトルムツェンダーのオーナーを、なかば呆然として見送っていたグーデリアンは、後方に避難していたブーツホルツとならんで、ふかくためいきをついた。
「あれが監督だ」
「世も末だな……」
フン、と鼻息を荒くしたのはピンヒールの女王様である。
「あれでドイツのトップメーカーですもの、たかがしれているわね。どだい、世界に冠たる工業国家の敵ではないわ。こちらは1億の臣民が天皇陛下のおんために、身を粉にして働いているのですもの。枢軸国のよしみでいろいろお世話さしあげたけど、おつきあいを考えなおしたほうがいいかしらね」
意味がわからないが、なにか怖いことをいっている。
「じゃ、あたくしも忙しい身ですから、あなたたちみたいにこんなところでいつまでも油売っていられませんの。失礼いたしますわね」
高笑いとピンヒールの靴音を響かせて、世界に冠たる工業国家の女王様は去っていく。働け極東の民よ……。
「あれも監督だ」
「世も末だ……」
「平ドライバーはつらいな……」
「いちおうエースパイロットなんだけどね……」
「なんといおうがパイロットは挿げ替え可能なパーツにすぎんよ」
シビアな声はもうひとりの極東監督からだ。
そのヒエラルキー意識はどこからくるのか、グーデリアンはとにかく、じぶんの恋人のほうがなんぼかましだ、とみずからを慰める。気休めかもしれないが。
「ではわたしも失礼する。励めよ、青年!」
さっそうと去っていくスゴウオーナーを、見送ることばはもうなかった。
いつものごとく疲労困憊である。
もう今日はモーターホームに帰って寝よう、と腰をあげようとしたとき、ききおぼえのありすぎる硬い靴音がもどってきた。
ふりむくと、もう用件をかたづけたのかハイネルが間近で笑んでいる。
ドリフでいうとわかりやすい前フリ、「志村、うしろ!うしろ!」のようなものである。
笑いじわのまるでできない、つくりもののような笑顔は爬虫類の無表情に似ていて、でもそんなところもどうしても好きな、じぶんはものすごく悪趣味でどうしようもない。
決定的に退路のないグーデリアンの心中を知ってか知らずか、どこかが決定的に人間ばなれした恋人は、たぶんかれにとっては最上級の愛にみちた笑顔をうかべた。かれが愛とかんがえているものが、ヒト語でなにかはこのところ不明だが。
「グーデリアン、」
公衆の面前だがあまり気にしたようすもなく、(そして通行人もいつものことだとあまり気にとめるふうもなく、)ハイネルがきゅっと手をにぎってくる。
つめたい体温に、ふっと魂をぬかれそうになったグーデリアンに、恋人はひとこと、
「がんばろうな。」

モーターホームでゆっくり昼寝を、というささやかな希望は、やさしくきれいに打ち砕かれたのだった。

 

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オールスターやってみたかったん。とくにオサムさん……スキスキー!!
スキ度に乗じて変態度倍増しのわたしです。
ちなみに監督が金髪スキーなのはママが金髪でマザコンで……という石投げられそうな裏設定があったりします。
あと、表のほうではグーハー以外のカプリングなんかかんがえられな〜いとうそをついているわたしですが、オサムさんと監督とかプラスランドルとかはユリみたいでい〜ナ〜とかおもいますが読みたくはないです。
ほんとはこの話の前にもいっこあったんだけど先にこっちを書きたかったんで、ま、実質これはこれでおわりかな?
とくにオチもない話なんで……いやあるといえばあるんだけど、あまりきもちのいいものではないので書くまいとおもっている。
そんなことで、もうエロとかSMとかぜんぜん関係ない裏第3弾ですた!だまされたー!

 

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