ALKALIANGEL TYPE-II  
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ショートストーリー
境界線のエンジェル

アメリカに別荘をたてる男なんてろくなものではない。
前々からそう思ってはいたが、今、ここであらためて実感している。
実家のちかくに別荘を買ったんだ、もちろんおまえのためさ、きっと気に入るぜハニー、なんて軽口にほだされて、結局こんなところに立っている自分が情けない。
管理人一家が出迎えてくれているが、得意の営業スマイルすら出てきそうにない。
「どお?完膚無きまでにおまえの趣味にぴったんこだろ?」
満面の笑みで両手を広げる、図体ばっかりのサル男の、バックに控えているのは。  
「おまえ好きだろ、こーゆー無駄にだだッぴろくてガッチガチの家」
「これは家じゃない、城と言うんだッ」
そうだ城だ。
なんでアメリカの大平原に城。
『頑丈な石造りの立派なお屋敷』とかいうレベルではない。
……実家ですら、ここまで城な城は(我ながらよくわからない表現だ。バカがうつったのだ!)持っていないのではと思う。
いや、そんなことは問題じゃない。
こんな滑稽な場所で、オフを過ごさねばならんということと。
そしてそして、私が血を吐くような思いで出してやってる給料を、こんなバカバカしいことに使いやがっ……いや、使うなどとは言語道断! と、いうことなのだコレは。
「無駄な買い物はするなとあれほど言っただろう!ディズニーランドじゃないんだぞッ!」
「シンデレラ城よかおジョウヒンになったと思うけどなァ」
それに、おまえのための買い物なんだから、ちっとも無駄じゃないぜダーリン、なんて無神経に笑う目の前の脳天男を、もう一度殴りたくなるのを必死にこらえて、 わたしはこめかみをきつくおさえた。……頭痛薬を買い増ししておこう。
「いーじゃん、広いし部屋だっていっぱいあるんだぜー。あとで探検しような」
「……そうだな」
ああ、このバカ面。
頭のかるさをそのまま物語っているふわふわの金髪頭。
……殴りたい。
いや、しかし、わたしもそうそうおとなげないことばかりはしていられない。
少々右の拳がうずくものの、わたしはこの、驚異的に知能指数の低そうな頭を更に不良品にすることは忍びないと思い、ひきさがってやることにした。
「これだけ広いのだったらなにも一緒にいる必要はなかろうな。もちろん食事も別ベッドもシャワーも別だ。というわけでわたしは繰り越しの仕事を片づけるので邪魔せんでもらおうか」
しまったッ。
食事はともかくベッドとシャワーは普通別だ!
管理人一家に不審に思われてはいないだろうか!?
……よかった、聞き流してくれているようだ。
いやいや、こんなこと特に不審にも思うまい、男同士で。
これは私としたことが、いらん心配をしてしまったな。ハハハ。

足どりも軽く邸(城)内に乗り込んでいくハイネルを、初日だけ部屋の案内と食事の世話をすることになっているトラウト一家は、主人を部屋まで送るという義務さえ忘れて期待の目で見送った。
この、世界に名だたるケンカカップルの、実況中継抜き生映像が、半日とはいえ自分たちのものになるのだ。
長女のメアリにいたっては、 『グーデリアンさん、今日はおあずけかもね!』なんて母親のジョアンナにささやいて、まあまあ、この子ったら、なんてにこやかにたしなめられている。
ハイネルの失言が、まるで失言にならないのは、日頃のカメラ前アクションの数々がものを言っているようである。  

さっきはすこしきついことを言ったが、あのバカのことだ、きっとまた悪気はないのかもしれない。
バカゆえに、精密機械のようにデリケートで正確無比の頭脳を持つこの、わたしの機嫌を損ねてしまうことがままあるが、あれでなかなか悪いヤツではない。
あいつがすこし反省したころに、出ていって仲直りをしてやらんでもない。
……いや、もうすでに反省して私を捜しているかもしれない。
腹が立ったとは言え、こんな奥まった部屋にひっこんでいては、あいつのジャパニーズ・トーフ頭ではつきとめることなど不可能だ。
……よし、そろそろ出ていってやるか。

ハイネルが部屋でじっとしていた時間、正味5分。

「グーデリアンさんなら、さっきここを通りましたけど……」
おっとりと笑うトラウト婦人に、ありがとう、と折り目正しい笑みを返す。
あのバカ、やっぱり私を捜しているのだな。
いい気味だが、少々タイミングが悪すぎると言わざるを得ない。
そうなのだ、これでもう5回目なのだ。
どういうわけか大家族のトラウトさん一家の、メンバーを網羅せんばかりにさっきから聞き歩いているのだが、思いきりすれ違っている。
せっかく、この私が許してやろうと、しかも自ら出てきてやったというのに!
娯楽室、キッチン、プールと奴の出没しそうな場所をたどってみたが、いっこうに巡り会わない。
……私たちは、所詮そういう運命なのだろうか。
そもそも、この家は、どうしてこう。

メアリが見たのは、ファステストラップをはじきださんばかりに回廊を駆け抜けてくるシュトルムツェンダー監督だった。
「あのうすらバカ、いったいどこへ消えやがったッ!!」
いつもの紳士然とした物腰など微塵もなく、ただひたすらに速い。
これが噂の、グーハーおっかけっこってやつね!
メアリはエプロンの下でグッ!と手に力を込める。
「グーデリアンさんなら、今しがたこの下を……」  
「下かッッ!」
「と、飛び降りないでください〜〜!!」
メアリは思わず、がしっとハイネルの腰をつかんでいた。
はっ、とあからさまに我に返ったハイネルは、わざとらしく咳払いをしてにこりと笑う。
「ハハハ、そんな愚かなことをするはずがないだろう。この、わたし、がっ」
今のはぜったい、やる顔だった。だって長い脚がかたっぽ、宙に浮いている。
語尾を不自然に詰まらせたハイネルは、その時間も惜しいとばかり見事なターンを決め、コーナーギリギリを曲がりきりながら去っていった。
でも、なんでハイネルさんがグーデリアンさんをおっかけてるのかしら?
最初の展開からいくと、逆なんじゃあ……。
メアリは首をかしげつつも、決定的瞬間はカメラにおさめないとね、とエプロンの下の一眼レフをそろりと撫でた。

見とれるほどのストライドで家(てゆうか城)んなかにつっこんでいくハイネルを、俺は上機嫌に見送った。
もちろん、イヤガラセだ。
なにかってゆうとハイネルは、アメリカは下品だからキライだとか、アメリカ人はこれだからイヤなんだとか、死んでもアメリカにだけは住みたくないとか、とことんアメリカ嫌いをアピールしてくるからさ。
オイオイ、俺、アメリカの星なのよ?
だから、ハイネルさんの大嫌いなアメリカに、ハイネルさんの大好きなヨーロッパのお城を、建ててやりました。
1000万ドルのいやがらせ。
我ながら、バカバカしくもカッコいいと思う。
あのハイネルが相手なんだから、これでもなまぬるいくらいだね。
まああとは、……ついでにバカンスも。
俺たちにはこれくらい、バカバカしいのが似合ってる。
半年分のお給料飛んじゃったけど、いいんだ、お金はこーゆーことに使うためにあるんだぜ。
あとは、ちょっと時間をおいて、どっかに籠もってるコイビトをひっぱりだして、なかなおりすればいい。
なんて、思ってたんだけど。
やっぱり俺、いつもちょっぴりオマヌケさんなんだな。

広すぎるんだ。

「おーい、ハイネル、どこ行ったんだヨー。あやまるからさ、出ておいでよー」
書斎、コンピュータルーム、ワインセラー。
ハイネルの好きそーな部屋を、順番にまわってるのにどこにもいない。
しかも、管理人さんご一行は、道々で『ハイネルさんなら今さっきここに……』を繰り返してくれるンだ。
こりゃ、なんかの陰謀か?
そのまえに、この家部屋が多すぎるって!いや、俺が作らせたんだけどさ!
廊下歩いてても歩いてく先が見えねえんだもん。
これじゃー、いちンち歩き回ったって、ハイネルには会えねえかも……。
トホホ。
あーもー、あいつのオフは短いのにさ!
なんで俺のやることっていちいち裏目に出るかねえ。
頭を抱えて、廊下の途中なのに行き止まりになってる、石の壁によりかかった。
思わずためいきをついて、それからまた吸って、そして思いのたけを吐き出してみる。
「なんで会えないんだーーーー!」

「え?」
「あ?」
ぶあつい石の壁越し、響いた声はふたりぶん。
「もしかして……ハイネル?」
「……ひょっとしてグーデリアンか……?」
ふたりして壁にくっついて、ちょっぴりほっとしたのもつかのま。
恋人たちを隔てる障壁は、回廊にそって1インチのすきまもなく立っているモノだから、声は聞こえてもおたがい姿を見ることもできない。
もどかしさと先から感じていたなさけなさに、案の定ハイネルからブチ切れた。
「どこ行ってたんだおまえはーーッ!なぜわたしがおまえをさがさねばならんのだ!本来ならば逆であってしかるべきだろう!だいたい、なんでこんなだだっぴろい別荘なんて建てるんだー!!」
キーン、と石に反響する声に、グーデリアンは耳をふさいでついでに目も閉じる。
「……あのさ、ハイネル」
「なんだ。反省したかバカモノ」
「オレ、おなかすいたヨ……」
「だれのせいだだれのっ!」
壁越しに夫婦漫才を始めそうになったが、いくらなんでもかなしすぎるとグーデリアンは身を起こす。
「とにかく、いつまでもここにいたってしょーがねえし。外で落ち合おうぜ、ハイネル」
「それは駄目だ」
きっぱりと言いきるその口調に、並々ならない威厳を感じて、グーデリアンはすこし壁から身を離す。
「……なんで?」
「また、面白いくらいすれ違うに決まってる。絶対、明日まで巡り会えないぞ。私たちはそういう星の下に生まれてるんだ。だから、ふたりとも動くのはゼッタイ、駄目だ!」
力説するハイネルに、グーデリアンはごつん、と石の壁に頭をあずけて、ふたたび座り込む。
「じゃ、どーすんですか、ハイネルさん……」
「おまえはここで待ってろ」
石の廊下に、パン、とほこりをはらう音が響く。
それから、まっすぐよくとおる声。
「わたしがちゃんと、おまえを見つけだしてやるから」
たたっと、猫のような足音をさせて走っていく気配を、グーデリアンは壁越しにきいた。
ひざにことんと頭をおとして、ちぇ、と甘い舌打ちをする。
「そーゆうカッコいいセリフは、オレに言わしてよネ」
でも、おとなしく待ってるから、ちゃんとオレを見つけてよ、エンジェル。

そんなつぶやきが、どういうわけかちゃあんと天使に届いていて、グーデリアンがまた殴られるのはそれから15分後のこと。

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