ALKALIANGEL TYPE-II  
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ショートストーリー
ウェディングリング

きみのいたみがわかるよ、なんてあまいことばにふたりとも、だまされてこんなことをいう。

『いっしょにいようか。』
『これからも。ずっと。』
『手をつないで。』
『この手をとって。』
『指輪をあげよう。』

 

「だってさあ、式も挙げないし、パーティもやんないし、そんで籍だけ入れるってつまんないじゃない」
内容物の高価さがうかがいしれるリングケースを、ひとしきりてのひらでもてあそんでいたグーデリアンは、あまりに気のないようすの連れの顔を、ごねるようにのぞきこんだ。
「わたしもウェディングドレスが着られなくて残念だよ」
にべもない、テリーヌを淡々とほおばるにわか配偶者は、さしだされたボックスを見ようともしない。
テラスにテーブルセットを出して、そらがあかるいうちから夕食をとっているなにやらけっこうなご身分の、しかも入籍したてのふたりなのだが、春風がつめたいのは気のせいばかりじゃない。

「だーもー。ふざけてんじゃないんだって。なんかさぁ、かたちがほしいとかおもわないわけ、おまえ」
「ふざけているわけじゃない。照れてるんだ」
「……」
最近、冗談も本気もますます判別のつかなくなってきた恋人を、うさんくさそうにねめつける。
なんてかわいげのない。
うっかりそう口に出すと、ハイネルはあいかわらずの無関心顔で、じゃあおまえがかわいらしくはじらったりねだったりすればいいだろう、とすごいことをいった。
「………なんで俺が………」
軟体動物のように脱力すると、つけあわせのトマトをフォークにつきさしたハイネルが真顔になった。
「夫婦だからな。おたがいに足りないものをおぎなっていかねばな。うん、いいものだな、結婚って」
あくまで真顔。
まあでも、おまえは素でもじゅうぶんにかわいらしいから、べつにかまわんぞ、とか不穏に論旨がずれていくのは、きっといやがらせだ。
てきめんに戦意をそがれる。
ここで負けてはいられないと、なぜか配偶者相手に闘志をふるいたたせて、ちからづくでスウィートな笑みをつくる。
「いいからホラ、だまってうけとる」
こなれた所作でリングケースからスリムなフォームのプラチナ・リングをぬきだして、ナイフをあやつる手をかすめとる。
うやうやしくおしいただいて爪先にかるく口づけ、おもいのほか骨ばったゆびに、少々無理じいをしてリングを押し込んだ。
なんだかんだいって、恋人に指輪をもらってうれしくないにんげんはいないのだ。
はにかんだ笑みのひとつやふたつ、人並みにこぼしてくれるものととうぜん期待してリアクションを待ったが、ハイネルはゆびにおさまったリングをほんとうにだまって検分しているものだから、グーデリアンもつぎのアクションをかんがえあぐねる。
「や、だからさ、ここでだまりこまれても困るんですけど」
「なんで」
「なんつーかこう、感想を」
泣いてよろこんでくれるとはおもっていなかったが、しかし腐ってもマリッジリングだ。テーブル越しにキスのひとつやふたつ、よこしてくれてもバチはあたらない。
が、ハイネルは右手をかざして、鑑定結果を読みあげるようにこういった。
「すこしサイズが小さいみたいだ。おまえ、わたしが女だったら即刻離婚届をたたきつけられてるぞ。ストロー袋をふざけるそぶりでゆびに巻きつける小技くらいしかけておけ」
「うん、いいわかった、もうなにもいうなマジで」
照れかくしなら照れかくしらしく、頬をあからめてみせるとか、視線をそらしてみせるとか、たとえうそでもやってくれればいいものを、これでは本気でなんの感慨もないのかとうたがいたくなる。……うたがいならいいのだが。
「でもほんとうにきつい」
ゆびの根もとをしめつけられる感覚が、どうにも気になるらしくさっそくリングをはずしにかかったところを、右手をひきよせてはばんだ。
「いんだよ。マリッジリングはきついくらいで」
「なぜ」
ひとまわり大きな手でくるみこまれたじぶんの右手を、温度を気にするようにみつめてハイネルが訊く。こう見えて動物のようなところがあるハイネルは、からだのどこかがあたたかくなると、反射的にねむたくなるらしい。こころなしかおもたくなったまぶたに気をよくして、グーデリアンはなつくようにテーブル越しの距離をつめ、至近距離の目に笑んでみせた。
「なかなか抜けないだろ?」
「ほう」
ねむけをはらうようぱちりと緑の目をしばたたかせた配偶者は、なにか思案するふうに首をかしげ、やがてふわりと目じりをゆるめた。

「浮気したら指ごと切り落としておまえに送りつけてやろう、書留でな」

 

さあこれでおたがいがおたがいの、ささえになろうとか、
死ぬまではなれないよずっといっしょだ、とか、
だれもわからなかったきみをわかってやろうとか、
だれもわからなかったぼくをわかってくれるとか、
そういうのはもうやめとこう。

すきまをうめるのではなく裂傷を生爪でこじあけるために、たえまない鈍痛はわかちあわずたがいに増幅し、するどいいたみを他人としてうけとって、ただほんのいっとき、手をつなぐだけのかたち、にゆびいっぽんをかけてくれたきみとの空がつめたい午後。

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