ALKALIANGEL TYPE-II  
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ショートストーリー
支店長の華麗な秘密

ドイツ最大手、シュトロブラムス銀行のシュツットガルト第二支店。
連日最重要顧客でにぎわう第一支店とは違い、きわめて標準的な市民を第一顧客帯とする、アットホームな支店である。
2012年4月、この支店に新支店長が赴任してきた。
あからさまにDCブランドなスーツを一分の隙もなく着こなし、シルバーフレームの眼鏡となぜかツンツンにおったてたヘアースタイルをトレードマークとするこの支店長は、あまりのヤンエグさ加減に就任当初は(主に男性社員から)反感を買いまくっていたが、適切なリーダシップと裏腹な箱入りっぷりに、今や部下顧客外注業者すべてのアイドルである。給料日前でパンも食べられないとこぼした部下に 『パンがないならケーキを食べれば良いではないか』と言い放った逸話は、今も脈々と語り継がれている。つまりは、平和な支店である。(前フリここまで)

そして今日も、そんな支店長をかこんで楽しいランチタイムである。
きわめて庶民的な従業員ばかりのこの支店では、ほぼ全員が弁当持参で休憩室ランチをとる。老舗料亭に昼食の出前を頼みそうな支店長も例外ではない。
支店長の弁当は、常に漆塗り金箔つきの重箱である。
今日のメニューはエグゼクティブらしくヒレステーキと白米だ。
重箱を包んだナプキンからおもむろにナイフとフォークをとりだすと、優美な手つきで食事をはじめた。
むろん、社員たちはそんな光景に微塵も疑問を持つことなく、『さすが支店長くらいになると』と感嘆のまなざしを惜しまない。
支店長は始終静かに食事をすすめていたが、今月づけで寿退社する窓口嬢の送別会の話になると小さく眉をあげた。
「あ、支店長、もしかしてそういう席はあまりお好きじゃありませんか?」
それに気づいた女性社員が心配げにたずねると、支店長はおっとりほほえんだ。
女性社員をはじめ、同席した従業員全員がその育ちの良さそうな笑顔に、しばしぼーっと見とれる。  
「いや、そういうわけではないが……。わたしは飲み過ぎると記憶があいまいになるようでね……」
支店長の飲み過ぎ……!社員たちのあいだに妄想がかけめぐる。
舞台はネオンの海を見おろす最上階のバーラウンジ。となりにはプラチナ・ブロンドも麗しいボンドガールクラスの美女。『少々飲み過ぎてしまったようだ……』となりの美女も恥じらうほどの白皙の頬にほんのり酒気をのぼらせて、手の中のワイングラスを緩慢に揺らす。『こんな夜は、記憶を失うほど愛し合ってもいい……』そして二人の影がやさしく重なる……。
バターン、と社員のひとりがイスごと倒れ込んだ。
「しっかりしろ、社員B!」
となりの同僚がすかさず介抱する。支店長の発言は、(彼の想像力にとって)少々刺激が強すぎたようだ。
「どうしたんだ?大丈夫か……?」
自らが元凶とは気づかない支店長は、1センチ角に切りわけたステーキを口にはこびながら鷹揚に首をかしげている。
「いえ、なんでもありません。さあ、お話の続きを!」
社員Bのとなりの男(おそらく社員A)が、昏倒している社員Bを抱えつつ叫んだ。
「ああ、べつにとりたてて話すほどのことでもないのだが……」
ソースで汚れたフォークをいちいちキッチンペーパでぬぐって、支店長は緑の目をこころもち上に動かす。
「このあいだなどは、芋焼酎の飲み過ぎで途中から記憶がとぎれてしまって」
「芋焼酎!?」
そんな支店長に似つかわしくない下賤なアルコール飲料を!
「そ、そのようなものをいったいどこで……」
「え?行きつけの赤のれんだが」
ほら、東口のパチンコ屋のとなりにある、なんてまたも支店長には不似合いのローカルな単語が飛びだしてくる。
い、行きつけ……!
赤のれん……!!
最上階のバーラウンジは?
ボンドガールは!?
社員たちはじぶんたちの(至極勝手な)想像とのギャップに頭をかかえた。
いやいや、志の高い支店長のことだ、我々下々の者の生活を知るため自らに日課を課しているにちがいない!
力業で納得して、すさまじい形相で支店長に話のつづきをうながす。
「そ、それで?」
「気がついたら玄関に倒れていたのだ。下半身裸で」
「は?」
「だから、下半身裸で」
まばたきもせずに、さらりと言ってのけた支店長を全員が凝視する。
「し、しししし支店長、あの、し、失礼ですが……」
社員Gあたりが、拳をきつくにぎりしめてテーブルに身を乗り出した。
「パ……パ……パンツは……そのパンツは!?」
「パンツ?もちろんはいてなかったぞ。裸だから」
2、3人が椅子ごと倒れこんだが、重箱をシルクのナプキンで包みなおすことに集中している支店長は気づかない。
「車も銀行の駐車所に置いたままだったから、どうやら赤のれんから家まで歩いてきたことは確からしい。靴も靴下もどこかに脱いできてしまったようでな。スーツのジャケットは着たまま、ワイシャツのボタンは襟元までしっかり閉まっていて、ネクタイまでしていたのに……いや、恥ずかしいな」
いまさら処女のような恥じらいを見せる支店長。白いナプキンでぬぐったくちもとに、はにかむような笑みをのせている姿は無垢な天使のよう(社員’sアイ)だが、今やそれに見とれている余裕はだれも持ちあわせていなかった。
自分が静かな恐慌をひきおこしたことには微塵も気づかず、支店長は重箱をスーツケースにしまいこんだ。
「さあ、休憩時間は終わりだ。午後もちゃきちゃき働こう!」
さわやかに、しかしどこかオヤジ臭い言いまわしで支店長が昼休みの終わりを告げる。
下半身裸で!
しかも徒歩で!!
ふらふらと持ち場に戻る社員たちが、その午後ミスを連発した原因が自分にあることを、支店長は知らない。

そしてその夜、シュツットガルト第二支店秘密会議で『支店長のパンツを死守する会』が結成されたかどうかは定かではない。

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