ALKALIANGEL TYPE-II  
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ショートストーリー
支店長のゆかいな年末

年末だ。

シュトロブラムス銀行シュツットガルト支店のはたらきものの支店長は、年末の得意先まわりに大いそがしである。大いそがしなのだが、銀のスーツケースを片手に商店街をゆるりと歩く姿は、あまりいそがしそうに見えない。もうかたほうの手に、得意先にくばる菓子折の山をいっぱいにかかえてにこにこしているさまは、おもちゃを買ってもらったばかりのこどものように、見るものをほのぼのとさせるオーラをふりまいている。
支店の得意先は、ほとんどが商店街に軒をならべる自営業者である。挨拶まわりに行く道すがらも、八百屋のおばちゃんやら花屋のお兄さんやらに声をかけられて、そのたびにっこりと首を傾がせる支店長の手には、菓子折が減っていくかわりにだいこんやポインセチアの鉢が追加される。
上から下までなにもかもがぱきっとぴかぴかの身なりに、考えられるかぎりのローカルな品々がくわえられて、お昼ちかくにはすでにあるくカオスとなりはてていた。年末近くなってから定期の口座をふたつもつくってくれた鮮魚店の主人は、栗もなかの菓子折にたいそう喜んで、青光りする鯖をくれた。日中から鮮魚や野菜や鉢植えや、その他さまざまの日用雑貨とスーツケースをかかえて、支店長はにこやかにあるいていった。
ふと見ると、カルティエの時計は12時過ぎをさしている。
すこし腹がへったかな。
いっぱいの荷物をかかえて立ちどまった支店長の目に、派手な看板がとびこんできた。

ここらでひとつ、しばしステーキハウス・テキサスのアルバイター、ジャッキー・グーデリアンに視点をゆずりわたそう。

この界隈でも安くてボリューム満点と人気の高いステーキハウス・テキサスは、平日のランチタイムもサラリーマンやOLでごったがえしている。
殺人的な回転率をものともせず、今日も広い店内を威勢良く走りまわっていたグーデリアンは、店の入り口に不審な人影をみつけた。
入り口にいるのだからおそらく客なのだろうが、さっきから微動だにしないのである。
自動ドアとまちがえてでもいるのだろうかと、とりあえず両開きのドアを開け、
「いらっしゃい!どうぞ中へ……」
お入りください、と続けようとしたグーデリアンは、思わずそのままドアを閉めそうになってしまった。
そこに立っていたのは。
いかにも上等そうなマラカイトグリーンのスーツを身にまとい、メガネと時計とスーツケースをプラチナ色に光らせて、手にはだいこんとポインセチアと、……鯖をのぞかせた『シュミットおじさんの鮮魚店』のビニル袋をかかえた男だった。

な、生魚……!?

ちょっとやそっとのことでは驚かないグーデリアンだったが、いきなり鯖と目が合ってしまい、ふいをつかれてうろたえる。しかし見事に体勢をたてなおし、客をテーブルへと案内すべく顔を上げると。
小作りで上品な顔におだやかな笑みをうかべた男は、出てきてそうそう挙動不審なグーデリアンをとがめるわけでもなく姿勢良く立って、育ちの良さとおそらくは人の上に立つ人間の余裕を全身で醸し出していたのだが、…………いかんせんそのライトブラウンの髪は、遺憾なく立っている。
すごく立っている。
たぶん、今まで見ただれよりも立っている。
こんなに立っている男は見たことがない。

めちゃくちゃ金持ちっぽくて、エグゼクティヴっぽいルックスの男が、だいこんと生魚を持って髪をすごく立てている。

お客さんを笑ってはいけない。
店員としての最低限の自制心を奮いたたせるために、状況を活字にしてみたが。

駄目だ、よけい笑える!!

グーデリアンはゆがむくちもとをおさえながら、その男をとりあえずテーブルまで案内した。
男は何をおもっているものか、そんなグーデリアンにおしげもなくほほえみかけている。

なぜステーキ屋の店員にほほえむ!?

なにか下心でもあるのか?いや、生魚を持ったサラリーマンがステーキ屋の店員にどんな下心を持つっていうんだ。待てよ、もしやこいつは鮮魚店のまわしものか?生魚の分際で焼かれた肉に刃向かおうっていうのか!?あああ俺はなにを考えているんだ!しっかりしろ自分!
単に愛想のいいだけのひとかもしれないのに、笑いの神に憑かれたグーデリアンはそんなことにすらたががはずれ、かつ疑心暗鬼になっている。
やっとのことで『テキサスランチ・Bセット大盛り』の注文を取り、ひとまずこの場を去れそうだと安心したそのとき。  
グーデリアンは、テーブル下に備えつけの伝票を取ろうとかがみこんで、さらに衝撃の事実を目の当たりにしてしまった。

く……靴下が色ちがい……!!

しかも、なんか変なピンク色と芥子色!
これは俺の忍耐力に対する挑戦なのか!?
いや、ちょっと待てジャッキー・グーデリアン。
これはひょっとすると、体をはったネタじゃないのか?
ネタなら笑わないと失礼だろう。
これはどう見てもネタだ。
これはネタなんだ。
俺は笑うべきだ。
いや、笑わなければならないのだ!
むしろ、つっこまねばなるまい!!

限界を訴えた忍耐回路がなけなしの論理思考能力に牽強付会という援軍を動員し、つまりはたいした脳内活動もなしで理性の壁をアクロバット跳躍で飛び越え、次の瞬間グーデリアンはスリッパを片手に強くにぎりしめていた。

かくして、客をすぱーんとはたいたグーデリアンは店長にこっぴどく叱られた。平謝りするステーキハウス店長に、しかし当の男はにこにこと笑いながら特盛りのテキサスランチをたいらげていた。
「支払いはこれで……」
帰り際、レジでゴールドカードを優美に差しだし、男はドアへと歩きだす。
とんだ災難だったが、あの男が帰れば終わる……。
なんだか疲れはてたグーデリアンは、『ありがとうございました……』といまだ続く笑いの発作に耐えながら見送ろうとした。
しかし、男はドアを前にしてうごかない。

もしやあれは。
 
なんとなく読めてきたグーデリアンは、男の横に立っておもむろにドアを開けてやった。
「ありがとう」
当然のようにほほえんで、生魚をぶらさげた男が悠然とあるきだす。
やっぱりそうか。
あれは自動ドアとまちがえてたわけじゃなかった。

ドアは、他人に開けてもらうものなんだね……。

なぜだか無性にかなしくなったグーデリアンは、それでも男の姿が見えなくなるまで、見守るのだった。

なにごともなくなごやかに終業時間をむかえたシュトロブラムス銀行シュツットガルト支店では、その日も定時終業ミーティングが行われていた。
「諸君、今日も1日よくがんばってくれた。報告を聞かせてもらおうかな」
支店長が花のほころぶような笑顔でうながすと、帰りの会で1日のまとめをする小学生よろしく、社員たちがつぎつぎと立ちあがった。もちろんなにごともなかったので、2丁目のヒュッテンさんちに男の子が産まれたそうですとか、駅前のスーパーで国産牛のタイム・サービスをやっていますといった、ほほえましかったり変に実用的だったりする報告しかない。
「ありがとう。ところで今日は、ちょっと不思議な体験をしたのだ。聞いてくれるかな」
くちもとのまえできれいにゆびを組む支店長に、社員たちはいっせいにうなずく。
「さあどうぞ、支店長、お話を!」
ちいさくうなずいて、支店長は赤い日記帳をひらいた。
「今日の午後、笑顔の素敵なステーキハウスの店員に、室内履きで頭部を強打されて、ステーキランチを特盛りにしてもらったのだ。いや、ほんとうに美味しかった」
頭部を強打?
にわかに社員の間を不安のさざ波がはしり抜けたが、追及する間もなくハッピーエンドで締められてしまった。
話の重心と感想が微妙にズレている気がするものの、支店長がなんだかしあわせそうなので、社員たちは『よかったですね』『肉はカンザスビーフですか』などとあたりさわりのないコメントともに拍手をする。
そんな、無理矢理ほのぼのとした空気の中、支店長はなぜか、とてもしあわせそうに笑うのだった。

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