ALKALIANGEL TYPE-II  
ゼノギアス サイバーフォーミュラ はりぽた その他ジャンル サチコさんのこと
グーハー メインページ ここ。 キャラクタ GHショートストーリー 絵 バカまんが
全ジャンル共通>> サイトマップ::迷子になったら ゲストブック::ぺったりあしあと お絵描き掲示板::たぶんめちゃくちゃ リンク::雑多 お問合せ::なんかあったら。
ショートストーリー
end of a century

クリスマスイブのもひとつ前の日、一年でいちばん好きな日のひとつだ。
前の年もそのまた前の年もそのまたまた前もそのずっとまえも、世界でいちばん好きなひとといっしょに、いちばん好きなひとの生まれた日を祝って、八割がたケンカに終わったりもするけど、でも毎年すっごくしあわせなんだ。

今年もまた、世界でいちばんに大好きなハイネルは、じぶんの誕生日を祝うための料理をちゃきちゃきと用意しながら、ちゃっかりテーブルについてあれこれ話しかけるオレに、律儀に返事をしている、クマさんの絵がついたエプロンも可愛いし、やっぱりしあわせだと思うから、つい、
「おれたちってホントしあわせだよなー、きっと来年もさ来年もそのつぎもずっとずっと、こんなふうにしあわせだよなー、しあわせな人生って、こーゆーのだろーな、うん」
思ったことを口に出して、あちゃあまた照れ隠しに怒られるかな、って思ったらハイネルはなんにも言わずにしゃくしゃくトマトを切ってる。ああ、今日はやっぱりハイネルも機嫌がいいのかな、ここはひとつさらに場を盛り上げてみるか!
「オレさー、今年もはりきりすぎて1ヶ月もまえにプレゼント買っちゃってさー、もーハイネルにみつかんないとこにおいとくの苦労したんだぜ、も、ゼッタイ気に入るから、死ぬほど楽しみにしてろヨー、なんつの、オレの愛の結晶?受け止めかねるほどのラブパワー!ってかんじで……ねェどうよ?ってアラ?」
あんまり反応がないのでシンクに向かってるハイネルを振り返ると、なんと、声も立てずに泣いてた。念のため手もとを確認してみたけどタマネギは切ってない。あらら?
「ど、どうしたの?しあわせすぎて感極まっちゃった??」
「おまえは、去年わたしに何を贈ったかおぼえているのか?」
「え?」
ヘンなことを訊いてるけど、まあハイネルがヘンなのはいつものことだし。えーと。
「何ゆってんの、忘れるわけないじゃん」
たしか去年も、めちゃくちゃはりきって何週間も前にプレゼント買って、ハイネルもとっても喜んでくれたし、いっしょうけんめい選んだ甲斐があったなって、やっぱりしあわせだなあって、
でもなにを?

大の男が持って歩くにははずかしいくらい、可愛らしくラッピングされた箱のなかみ、ハイネルが神妙そうな顔で包みを解いて、さあ、なにを見て喜んだんだっけ?
ぬいぐるみ?指輪?ネクタイ?

「あれー、ちょっとど忘れかな、なんだっけ、んーとー」
あははーと笑って誤魔化そうとするオレに、ハイネルは次々たたみかける。
「では、今年のおまえの誕生日に、わたしはなにを贈った?去年は?何を食べた?どこに行った?」
「ちょ、ちょっと急になによ。そんないっぺんにきかれてもこたえらんないよ」
ただごとでない剣幕、さすがにあわてるオレに、ハイネルは泣きながら、ゆであがったブロッコリーをボウルにあけ て、ずっとのみこんでたものをはきだすみたいに、こう訊いた。
「そもそも、おまえはわたしといつどこでどうやって会ったのかおぼえているのか?」
そこまで言われて、オレはやっと、ハイネルがなにを訊きたいのか気がついた。
だいじな、日のことをおぼえているのか、って。
そんなの、忘れるわけがない。
忘れるわけがないのに、あたまのなかに浮かぶのは、ただぼんやりしあわせだったな、ってそれだけ。
大好きなハイネルと、どこでどうやって出会ったんだろう。
今年ハイネルがオレにくれた、なにかを、オレはどこにやったんだろう。
だいじにだいじに、どこにしまいこんでる?

さすがにだまりこんでかんがえているオレを、ハイネルはとても、かなしそうに見ていた。
「わたしがなんにも気づかないと思ってるのか?思ってるだろうな。そもそもおまえはじぶんが気づいてないんだからな」
だれがなにに気がつくって?
もっと、わかりやすくゆってよ、そう目で訴えると、ハイネルはちいさくため息をついた。
「誕生日におなじものを何度も贈られたり、わたしが贈ったものを次の日にはなくしていたり、ああコイツはほんとうにどうしようもなくいいかげんな男なんだと思ったさ、ほんとうに腹が立った、でもそういう問題じゃなかったんだ。もっとはやく気づけばよかった」
「……どうゆうこと?」 
まったくわけがわからずに、きょとんとしているオレを、ハイネルはますますかなしそうに、かなしいのにやさしい目で、見ている。
「あいしてるとか大好きだとかしあわせだとか、ずっといっしょだとか、おまえはあいさつみたいにしょっちゅう言ってばかりだ、それはとてもだいじで、ほんとうにおそろしいことばなんだ、そんなふうに軽々しく口にしてはいけないことばだ。おまえはそれを知ってるから、そんなふうにさもどうでもいいように使うんだ。それを自分でわかっているのか?わかってないだろう」
「うん」 
ハイネルがなにかだいじなことを言ってる、でもよくわからない、だいじなのに、ハイネルの言うことはいつもむずかしくてよくわからない。
「おまえはほんとうにあたまが悪いから、バカだから、どうしようもないどあほうだからじぶんがどんなふうだかもわかってないかもしれないがな、だが私はおまえとちがってバカではないからっ、おそろしく頭が良くてなんでもわかってしまう上におまえのことならその50倍はわかってしまうんだから、ああどうしたらいいんだもう」
ぼとぼとと涙をこぼしながら、シチューが焦げつかないようにかきまぜてる。
そんなに泣いたらしょっぱくなっちゃうよ、シチュー。
ハイネルが、なにか、オレのことをいっぱい話して、いっぱい泣いてる。
「ぜったいに忘れたくないものから忘れていくしなくしたくないものからなくしていくんだ、おまえは。そういうふうにしていかないと、耐えられないんだ。わたしが贈ったものをおまえはいつかなくしてしまうかもしれない、おまえがくれたものをわたしは明日壊すかもしれない、わたしは明日死ぬかもしれない、それが、ほんのすこしだって考えられないほどこわいんだろう?いや、もうこわいと思わないくらい当然なんだろう?だからほんとうにだいじなことは、ひとつだっておぼえていられないんだ」
「……そうなの?」
いっぺんにたくさんのことばをおぼえていられないのはたしかだけど。オレは、そんなふうなのかな。言われても、あんまりピンとこないや。
だけどハイネルがあんまり泣くから、ハンカチなんて持ってないし、トレーナーのすそで目もとをふいてあげた。ハイネルはちょっとわらって、でも涙はまだ止まらない。
「おまえがどうしてそんなふうなのかはわたしは知らない、なにを見てなにを感じて、そういうふうに生きてくことを選んだのか知らない、わからない、おまえもきっとわからないだろう」
とてもちいさなひくい声、ひとりごとみたいに、でもオレにはちゃんと聞こえた。ハイネルの声が、聞こえていた。
「おまえみたいなバカにな、なんて言ったらわかるかなんてとんでもなく賢いわたしにもわからない、もしかしたら世界はおまえが思ってるとおりなんにもないものなのかもしれないさ、でも今日はいまここにあってわたしはここにいるだろ、今日作った料理の味も、ずっとおぼえてたいせつにしたいだろう、それはあした世界が終わったっておなじようにだいじで忘れたくないんだ。だから私は泣いてるんだ、わかったかこのうすらバカ!!」
なんだか完膚無きまでにバカにされている気がするけど、じっさいハイネルの言ってることのはんぶんもわからないからやっぱりバカなのかもしれない。

でもなんとなくわかるのは、俺はなんにも信じないんだと、みんなが必死で祈ってしがみつこうとするものぜんぶ、さいしょから手をはなして、手をはなしてあきらめたこともわからずにわらってるんだって、それがかわいそうだからハイネルは泣いてるんだってこと。たぶん、そんなことを言ってるんだろう、考えたこともなかったけど、もしかしたらそうなのかもしれない。

ハイネルはしゃくりあげながらもきれいにサラダを盛りつけて、くつくつおいしそうな音を立ててるシチューを取り分けた。泣いていっぱいしゃべりながらも、細心の注意をはらってちゃんとかきまぜてあるから、焦げつきなんていっこもない、まっしろなシチュー。オレンジのニンジンやころころしたじゃがいも、やわらかそうな鶏肉、ぜんぶがあったかくておいしそうだった。

だから、泣きやまないハイネルをあやしながらもきれいにたいらげたホワイトシチューは、いつもとすこし味つけが違ってなんだかすごくおいしかった、またコレつくってよ、って笑ったらハイネルは一瞬泣きやんで、いつものとおなじだバカ、そう言って、こんどは声を上げて泣き出してしまった。
ほんとうになにがなんだかよくわからない、オレは混乱したまま、せっかくの誕生日なのに泣いてるハイネルが、妙にはっきりと見えてることに気がついた。
その涙はなまあたたかくて、ゆびさきはつめたくてかたい、髪の色とか目の色つめの色、体温や心臓の音や皮膚の下を行き交う血の流れる音、ぜんぶがきゅうにうわっとめのまえにせまってきて、手をのばせばとどく。

どうしたっていうんだろう。

わからないまんま、オレたちはその日、おんなじベッドで、手をにぎりあって、寝た。
ああ、しあわせだなっていう、ぼんやりとしたかんじはもう、なかった。
ただ、息をしている、めのまえで息をしている、にんげんが、いた。
まっくらな部屋のなか、からだじゅうに押し寄せてくる気配を、息をするのも忘れて、みつめていた。


つぎの日の朝、ハイネルの横で目をさまして、やっぱり世界はなんにも変わらない。
ずっとつづくものもなくならないものもない。
となりで眠ってる男も、ほかのなまあたたかい肉塊と変わらないいずれは腐って消えてくもの。
でも窓をあけて、しろい雪としろい光と、どこかの知らないふたりがのこした足あとを、見た。

不思議な世界だ。






不思議な世界だ。


prev :: Your Teardrops Taste So Sweet short storyトップ next :: end of a century enhanced
グーハー トップページへ